中小企業に、強みは必要なのか

中小企業の経営改善では、SWOT分析にしても何にしても、「自社の強みを活かそう」という話が必ず出てきます。強みは経営の大事な視点ですし、だからこそ支援者も「御社の強みは何ですか」とよく聞く。

以前、この「強み」について少し違う角度から書きました。強みは誰が決めるのか、という話です。強みは相対的なもので、競合との比較より前に、そもそもお客様が「これは外に頼んだほうがいいな」と思うかどうか、つまりお客様と自社の間で決まる。だから自社であれこれ考えるより、お客様に聞いたほうが早いですよ、と。(詳しくは強みは、誰が決めるのかに書きました)

今日は、そこからもう一歩踏み込みたいと思います。そもそも中小企業に、強みって必要なんだろうか、という話です。

もちろん、競合より良いことが選ばれる理由になるのは、その通りです。それは否定しません。

そもそも、お客様は違いに気づいているのか

ただ、ひとつ引っかかることがあります。

その強み、お客様は本当に「違い」として認識できているんでしょうか。

自社では強みのつもりでも、お客様からすると、正直そこまでの違いには見えていない、ということは結構あります。作り手が思っているほど、受け手には差が伝わっていない。

そうだとすると、それは強みとして働いていないんですよね。お客様が気づいていない違いは、ないのと同じ。ここがまず、見落とされがちなところです。

違いに気づいても、人は簡単には乗り換えない

もう一つあります。

仮にお客様が違いに気づいたとして、それでも乗り換えるかというと、話は別です。

取引先を変える、仕入れ先を変えるというのは、お客様にとっては「今のやり方を変える」ことです。変えるには手間がかかるし、新しい相手が本当に大丈夫か不安もある。社内に「なんで変えたの」と説明する面倒もある。こういう心理的なコスト、いわゆるスイッチングコストが働きます。

だから、ちょっとやそっとの違いでは、人は動きません。「たしかにそっちのほうが少し良さそうだけど、わざわざ変えるほどでもないか」で終わる。

裏を返すと、こういうことです。お客様にとっての付加価値が多少弱くても、一度関係ができていれば、そう簡単には切られない。逆に言えば、こちらが多少付加価値を磨いたところで、それだけで新しい仕事が取れるとは限らない。

能力が高くても売れないし、低くても売れる

誤解を恐れずに言ってしまえば、能力が多少高いくらいでは売上はつくれないし、能力がそこそこでも売上はつくれる、ということです。

これはもちろん、圧倒的に飛び抜けた能力があるなら別です。唯一無二のものを持っているなら、それははっきり強みですし、ちゃんと売上になる。でも、そこまでの差でないなら、能力の多少の違いは、売上を分ける決め手にはなりにくい。

そう考えると、強みには2つの種類があるんだと思います。付加価値そのものが強みになるケースと、付加価値ではなく関係性が強みになるケース。そして中小企業の場合、後者で十分戦えていることが、実はかなり多い。

攻め方は、その業界の「買い方」で決まる

このスイッチングコストは、扱っているものや業界によってずいぶん違います。

乗り換えやすい商材なら、参入しやすい。ただ、その分こちらも奪われやすい。逆に乗り換えにくい商材なら、入り込む隙は少ないけれど、一度入れば安定する。

ここで大事なのは、この参入障壁は、こちらの努力でどうこうできるものじゃない、ということです。それはその業界・商材の、お客様側の「買い方の仕組み」だからです。

だとしたら、やることは見えてきます。まずその仕組みを理解する。そのうえで、付加価値で攻める市場なのか、関係性で攻める市場なのかを見極める。強みを磨くのが先じゃなくて、相手の買い方を知るのが先なんです。

強みは、なくてもいい

というわけで、「中小企業に強みは必要か」への私なりの答えは、こうです。

唯一無二の強みがあれば、それは強力です。でも、それは必須じゃない。多くの中小企業では、関係性が実質的な強みとして、ちゃんと機能している。しかもその関係性は、その業界の買い方の仕組みに守られている。

だから、強みがないことをそんなに嘆かなくていいと思います。それより、自分たちが戦っている市場がどういう仕組みで動いているのかを理解して、付加価値で行くのか関係性で行くのかを見極める。そこに活路があります。

ちなみに製造業は、これまで比較的乗り換えの起きにくい業界でした。ただ、今は廃業や倒産が増えて、その前提が崩れてきています。その話は別の記事に書いたので、よければそちらも。(製造業こそ、営業のチャンス