財務分析というと、安全性、収益性、成長性——そういった指標を計算して、同業他社と比べる。そんなイメージを持っている方が多いと思います。
でも正直に言うと、私は他社と比較することに、あまり意味を感じていません。
他社比較が、あまり役に立たない理由
なぜかというと、会社ごとに経営のメカニズムが違うからです。
同じ業種でも、儲け方も、コストのかけ方も、お客様との関係も、会社によってまるで違う。財務数字というのは、そうした経営活動の「結果」として出てくる数字です。前提となる仕組みが違うのに、結果の数字だけを並べて比べても、そもそも土俵が違う。
「同業他社の平均と比べて、うちは在庫が多い」と言われても、そもそもビジネスの回し方が違えば、多くて当たり前かもしれない。他社比較は、こういう「前提の違い」を無視してしまいがちです。
だから私は、他社と比べるより先に、やるべきことがあると思っています。
まず、自社の時系列を並べる
シンプルです。その会社の数字を、何年分か時系列で並べる。それだけです。
そして、実数の変化が大きいところに注目します。売上が急に伸びた年、利益がガクッと落ちた年、経費が跳ね上がった年。そこで「何があったのか」を確認していきます。
社外で何か変化があったのか。社内でどういう意思決定をしたのか。当時、何を考えて、何を決めたのか。数字が大きく動いた裏には、必ず理由があります。
同じように、売上高に対する比率でも見ます。原価率、人件費率、経費率——比率が大きく動いたところを見つけて、そこで何が起きたかを確かめる。実数と比率、両方の「変化の大きいところ」を追いかけるわけです。
なぜ「変化の大きいところ」なのか
ここが一番大事なところです。
財務数字が大きく変化したということは、その会社の経営のメカニズムが、大きく動いたということです。
普段、会社の仕組みは静かに回っています。その中身は、外からは見えにくい。ところが、何か大きな変化が起きたとき——新しい取引先が増えた、大口が抜けた、設備投資をした、人を大量に採った——そのとき、数字が動きます。
つまり、数字が大きく動いた瞬間というのは、その会社の仕組みが「見えやすくなっている」瞬間なんです。
平常時の細かい数字をいくら睨んでも、メカニズムはなかなか見えてきません。でも、大きく動いたところを掘ると、「ああ、この会社はこういう構造で儲かって、こういうことが起きると崩れるのか」というのが、くっきり見えてくる。
だから、変化の大きいところを狙って掘る。これが、その会社の経営を理解する一番の近道だと思っています。
本当の狙いは、経営のメカニズムを理解すること
ここまで財務分析の話をしてきましたが、一番伝えたいのは、実はこういうことです。
財務という数字そのものを主役にして見るのではない。数字を通じて、その会社の経営のメカニズムを理解する。これが本当の狙いです。
経営のメカニズムというのは、たとえばこういうことです。
外部から見れば、この会社は何に影響を受けやすいのか。景気なのか、為替なのか、特定の取引先の動向なのか、原材料の相場なのか。どこが揺れると、この会社の数字は揺れるのか。
内部から見れば、経営者にどういう意思決定の癖があるのか。ビジネスモデルとして、売上はどういう構成でできているのか——数量×単価なのか、客数×客単価なのか、どの事業やどの顧客が屋台骨なのか。そして、コスト構造はどうなっているのか。固定費が重いのか、変動費型なのか。
こうした「その会社ならではの仕組み」を掴むことが、目的です。財務数字は、その仕組みを読み解くための手がかりにすぎません。
数字は結果、仕組みが本体
数字は、あくまで結果です。その結果を生んでいる仕組みのほうが、本体です。
指標を並べて他社と比べるより、自社の数字が動いた瞬間に何があったかを一つひとつ理解していく。そうやって、外部の何に弱く、内部でどう意思決定し、どういう構造で儲け、どこにコストがかかっているのか——その会社のメカニズムを掴んでいく。
地味な作業ですが、これをやると、その会社のことが本当に分かるようになります。そして、メカニズムが分かれば、次に何をすべきか、どこをどう変えれば効くのかも見えてきます。
財務の先に、事業計画がある
財務分析といえども、数字は結果です。その因果の元にある経営のメカニズムを理解する、そのための一つの手法として捉える。そう考えたほうが、再現性もあるし、財務の見通しもしやすくなります。
逆に、このメカニズムが見えないままだと、本来は未来の計画であるはずの事業計画も、施策の積み上げで場当たり的なものになってしまう。経営のメカニズムから描かれる、一貫性のある未来計画にはならないのです。
数字を読むことではなく、数字を通じて経営を読むこと。そして、その理解を未来の計画につなげること。財務分析の意味は、そこにあります。