遠くのベストより、近くのそこそこ

「良いものをつくれば売れる」。ずっと言われてきた言葉ですが、私はこれ、半分正しくて半分間違っていると思っています。

なぜかというと、お客様は必ずしもベストを選んでいないからです。

お客様は、ベストを探していない

自社の視点で考えると、つい「もっと良いものを」「競合よりベストを」と考えます。でも、いったんお客様の側に立ってみると、景色が変わります。

お客様は、世の中のすべての選択肢を並べて、一番良いものを選び抜いているわけではありません。そんな時間も労力もない。実際には、知っている中から、そこそこ良さそうで、話がしやすいところで、なんとなく決めている。これが現実の買い方です。

意地悪な言い方じゃなくて、自分が買い手のときを思い出せば、たいていそうですよね。ベストかどうかなんて、最後まで分からないまま決めている。

判断できない商材ほど、そうなる

これが特に強く出るのが、サービス業や、まだ世の中にイメージが定着していない新しい商品です。

こういう商材は、買う前に良し悪しを判断しきれません。使ってみないと分からない、頼んでみないと分からない。どこまで比較しても、これがベストだという確信は持てない。

そうなると、お客様はどうするか。「これ以上考えても分からないな」となって、そこそこ良さそうで、話しやすいところで話をまとめてしまう。ベストの追求を、どこかで諦めるんです。諦めるというより、それが合理的な判断なんですよね。永遠に決められないよりは、そこそこで決めたほうがいい。

建前は「ちゃんと比較した」、でも実際は認知の範囲だけ

ここで面白いのは、お客様本人は、けっこう真剣に選んでいるつもりだ、ということです。

「いや、うちはちゃんと数社を比較して決めています」と。建前としても、実感としても、ベストを選んだことになっている。手を抜いたつもりはまったくない。

でも、よく見ると、その比較は「自分が知っている範囲」の中だけで行われています。世の中の全部を並べているわけじゃない。認知している数社を、真剣に比べている。つまり、本気で選んではいるんだけど、実際にはその人の認知の範囲内でのベストエフォートなんです。

これは、売る側からすると決定的です。どんなに良くても、その比較のテーブルに乗っていなければ、そもそも土俵にすらいない。逆に言えば、まずそのテーブルに乗ること。お客様が「比較する数社」の中に入っていること。これがスタートラインになります。

だから、「近い」ことが効いてくる

ここまで来ると、自社が何をすべきかが見えてきます。

お客様がベストを探していないのなら、ベストを目指して磨き続けることが、そのまま売上につながるとは限らない。それよりも、お客様の近くにいることのほうが効きます。

近くというのは、物理的な近さもそうですし、心理的な近さもです。思い出してもらえる、声をかけやすい、なんとなく安心できる。そういう「近さ」が、実際の受注を左右します。

ここで、一つ分けて考えたいことがあります。「良いものに仕立てる活動」と、「売れるようにする活動」は、別物だということです。

良いものをつくるのは大事です。それは否定しません。でも、それだけでは売れない。売れるようにするには、お客様の近くにいて、思い出してもらえて、話しかけてもらえる状態をつくる、という別の活動が要る。この2つを混同すると、「良いものをつくっているのに売れない」という袋小路にはまります。

相手が中堅以上なら、カテゴリーごとの「買い方」がある

もう一つ、相手の規模によって効いてくる話をしておきます。

中堅以上の会社になると、購買の仕方が整理されていることが多いです。「この分野のものはこう調達する」「このカテゴリーはこの方針で」と、カテゴリーごとに調達の考え方を持っている。

そうすると、自社が複数のカテゴリーで思い出してもらえる立ち位置にいれば、それだけ入り込むきっかけが増えます。ひとつの顔だけでなく、いくつかの切り口で「あそこはこれもやってくれる」と認識されていると、チャンスが広がる。

もっとも、これは相手がある程度の規模の場合の話です。小規模な事業者が相手なら、そこまでカチッとした調達方針があるわけではないので、あまり意識しすぎなくていいと思います。要は、相手の「買い方の仕組み」に合わせて、こちらの見せ方を考える、ということです。

ベストを目指すより、近くにいる

だから、伝えたいのはこういうことです。

ベストを追い求めること自体を否定はしません。でも、それは「良いものに仕立てる活動」であって、「売れるようにする活動」とは別だと分けて考えたほうがいい。

そして売上をつくりたいなら、遠くのベストを目指すより、お客様の近くにいることです。物理的にも、心理的にも。良いものをつくる努力と同じくらい、いや、それ以上に、近くにいる努力を大事にしてほしいと思います。

お客様は、遠くのベストより、近くのそこそこを選ぶ。だったら、その「近く」に、自分がいればいい。

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