事業性評価融資、事業者支援人材の育成——こうした言葉が、金融機関の世界でますます叫ばれています。
ただ、号令ばかりが先行して、現場ではなかなか進んでこなかった、というのが実際のところではないでしょうか。
なぜ、進まなかったのか
理由は、いくつかの制約が重なっているからだと思います。
多くの金融機関には、モノ売り的な発想や、報奨制度の仕組みがあります。その中で、じっくり事業者支援に関わることは、興味はあっても、なかなかインセンティブが働きません。時間的な制約、物理的な制約、そして心理的な制約。これらの中で、「支援が大事だ」と叫べども、現場は動きにくかった。
構造がそうなっているのだから、号令だけでは進まないのは、ある意味で当然です。
メニューから選ぶ発想では、テーラーメードにならない
もう一つの壁があります。
いざ支援しようとしても、どうしても自行が持っている支援メニューの中から選んで、企業にあてはめる、という発想から抜け出しにくい。
しかし、企業の課題は一社ごとに違います。既存メニューへのマッチングでは、個々の企業に本当に適したテーラーメードの支援は、なかなか難しい。ここも、支援が形だけになりやすい一因だと思います。
人材育成は、研修だけでは足りない
こうした中で、人材育成にはどの金融機関も力を入れています。ここは間違いありません。
ただ、人材育成を研修や座学だけに期待するのは、無理があると感じます。事業者支援のような仕事は、知識を聞いただけで身につくものではありません。OJTのように、実践経験を通じて育つ部分が大きい。
だとすれば、必要なのは実践の場です。たとえば3ヶ月程度、短期でもいい。出向のような大がかりな形でなくてもいい。とことん一社に向き合う時間をつくる。それが、何より育成になります。
時間がない、というのはよく分かります。しかし、本当に人材を育てるつもりなら、それくらいの投資は必要ではないでしょうか。
実践を活かすには、ガイド役が要る
もっとも、ただ3ヶ月を企業に張り付けば育つ、というものでもありません。
その3ヶ月をどう過ごすのか。何を見て、何を考え、どう関わるのか。それをガイドできる人材が、あわせて必要になります。育成される側だけでなく、育成を導く側の存在です。
加えて、地域ごとに産業特性は異なります。その地域の産業特性を踏まえた専門チームを組成することは、支援の質の面でも、人材育成の観点からも、効果的だと思います。
本当の狙いは、組織の意識改革
そして、ここが一番大事なところです。
テーラーメードの支援が根づくかどうかは、実は人材育成だけでは決まりません。関わる金融機関という組織そのものが、その取り組みを「是」として、前に進める環境やインセンティブを持っているか。ここが問われます。
どれだけ現場の担当者が育っても、組織の仕組みや評価が旧来のままであれば、育った人材も動けません。制約の中に押し戻されてしまう。
だからこそ、人材育成は最終目的ではなく、入口だと捉えたい。育成の取り組みを通じて、組織全体の意識を変えていく。テーラーメードの事業者支援を是とする文化と仕組みを、組織の側につくっていく。
人材育成を通じた、組織の意識改革。そこまでつなげてこそ、事業性評価融資も、伴走支援も、号令倒れに終わらず、本当に前へ進むのではないかと思います。