製造業こそ、営業のチャンス

製造業の多くは、「良いものを作ること」こそが価値であり、強みだと考えています。

それ自体は間違っていません。しかし、ここに落とし穴があります。

「うちの強みはものづくり」は、みんな言っている

中小の製造業を回っていると、ほとんどの会社が同じことを言います。「うちは品質が高い」「技術力がある」「細かい対応ができる」。

つまり、自社の強みだと思っているものが、実は他社も同じように訴求している。差別化になっていないのです。

厳しい言い方をすれば、多くの会社は「自社の本当に良いところ」を分かっていない。あるいは、他社にもっと良いところがあることを知らないだけ、ということもあります。

では、本当の強みはどこにあるのか。

関係性こそが、実は強みになっている

ものづくりの質で横並びだとしたら、何で選ばれているのか。

多くの場合、それは関係性です。長年の取引、気心の知れた担当者、無理を聞いてくれる安心感、すぐ連絡が取れる距離の近さ。こうした関係性が、実際の受注を支えています。

そして関係性は、営業する側から見ると、非常に手強い参入障壁です。いくら良い提案をしても、「今の取引先で困っていないから」と言われれば、そこで終わる。関係性があるところには、簡単には入り込めない。

だから、関係性は立派な強みなのです。

ところが今、その関係性が崩れかけている

ここが重要です。

今、廃業や倒産が各所で起きています。長年の取引先が、ある日突然なくなる。頼りにしていた仕入先が事業をたたむ。担当者が引退する。

つまり、これまで盤石だった関係性が、あちこちで崩れかけているのです。

これは、既存の取引にとってはリスクですが、外から見れば——チャンスの窓が開いているということです。今まで入り込めなかった相手に、入り込める余地が生まれている。

入口で効くのは、強みではなく「想起」と「話しかけやすさ」

このチャンスを掴むために、何が要るか。

ここで多くの製造業は「うちの強みをどう訴求するか」を考えます。もちろん、取引が始まった後の継続性においては、強みは重要です。

しかし、入口の段階で効くのは、実は強みの訴求ではありません。「困ったときに思い出してもらえるか(想起)」と、「気軽に声をかけてもらえるか(話しかけやすさ)」です。

いざ取引先が倒れて「どこかいい先はないか」となったとき、真っ先に思い浮かぶ会社になっているか。ちょっと相談してみようかと思える相手になっているか。まずこの土俵に乗ることが、すべての起点になります。

そして、競合は営業していない

極めつけはこれです。

製造業の多くは、営業に力を入れていません。「作るのが本業」「営業は苦手」「待っていれば仕事は来る」——そういう会社がほとんどです。

つまり、少し営業に力を入れるだけで、簡単に抜きん出られる。競合が動いていない分野で、先に動いた者が果実を得る。

関係性が崩れかけている今、想起と話しかけやすさを意識して、こまめに接点を持つ。それだけで、他社がやっていないからこそ、大きな差になります。

だからこそ、製造業こそ営業のチャンスなのです。

実は、これには裏付けがある

ここまで現場の実感として書いてきましたが、これはマーケティングの理論とも一致します。

ブランド研究で知られる考え方に、「メンタルアベイラビリティ」と「フィジカルアベイラビリティ」というものがあります。

メンタルアベイラビリティは、想起されやすさ。顧客が必要になったとき、真っ先に思い浮かべてもらえるか。フィジカルアベイラビリティは、接触しやすさ・買いやすさ。声をかけやすく、たどり着きやすいか。

この理論が言うのは、新しい顧客を獲得するうえで効くのは、まずこの2つのアベイラビリティだということです。私が「想起」と「話しかけやすさ」と呼んできたものは、まさにこれにあたります。

では、強み——他社にない優位性——は不要なのか。そうではありません。強みは「プリファレンス(選好)」として、取引が始まった後の継続性を支えます。選ばれ続ける理由にはなる。ただ、入口で最初に効くのは、強みよりもアベイラビリティなのです。

多くの製造業は、この順番を逆に考えています。「まず強みを磨いてから」と。しかし、想起されず、話しかけてもらえなければ、その強みを見てもらう土俵にすら乗れません。

まず、思い出してもらえる存在になる。声をかけてもらえる存在になる。その上で、強みで応え続ける。

作る力に、届ける力を。この両輪が揃ったとき、製造業は本当に強くなります。