支援者が数字を語れない問題——大手コンサルと中小企業支援の間にあるギャップ

大手コンサルティングファーム出身者が、中小企業の支援に携わろうとしたとき、最初にぶつかる壁がある。

数字だ。

正確に言えば、財務三表を自分で組み立て、金融機関と対等に会話できる力。これが中小企業支援では最低条件となるが、大手コンサル経験だけでは身につかないことが多い。

中小企業における金融機関の存在

中小企業にとって、金融機関からの借入は返済すべきものではある。しかし実態としては、借りては返し、返しては借りる——いわば疑似的な資本金のように機能しているケースが少なくない。

言い方を変えれば、金融機関は中小企業にとって、ある種の株主のような役回りを担っている。正確には株主ではない。しかし、企業の存続と成長に対して強い利害関係を持ち、経営の方向性に影響を与える存在であることは間違いない。

正しくは、貸し手としてレンダーガバナンスを効かせる立場だ。

この構造を理解すると、中小企業を支援する上で金融機関とのコミュニケーションが避けて通れないことが見えてくる。そして金融機関との対話は、基本的に数字で行われる。数字で語れなければ、話にならない。

大手コンサルの現場では、金融機関はほぼ出てこない

一方、大手企業向けのコンサルティングでは事情が異なる。

筆者の経験上、大手企業の支援において金融機関と折衝しなければならないケースはごく僅かだった。少なくとも、金融機関と相談するという場面はほぼなかった。

大手企業の支援で気に掛けるのは、社内のヒエラルキーや部門間のパワーバランス、経営陣との合意形成、社外役員へのコミュニケーション、株主を意識したメッセージ性のある取り組み——こうした組織内外のステークホルダーマネジメントだ。金融機関がそこに登場することは稀である。

数字の扱い方が根本的に違う

大手コンサルの現場でも、もちろん数字は扱う。取り組みの採算性としてROIや投資回収期間、ROIC。事業ポートフォリオの検討。これらの議論は当然にある。

しかし、あくまでPLやキャッシュフローの観点を概算で算出し、収益性の確認を行うレベルだ。BS・CF・PLにおいて全科目を網羅する形で整理することは、ほぼない。

金融機関がどこに着目するのか。行内の審査ロジックはどうなっているのか。こうしたことを気に掛ける必要もなかった。

中小企業支援では、これが必須になる

ところが、中小企業支援ではこれが必須となる。

金融機関の本部は、当然にこうした内容を知っている前提で話をしてくる。財務三表の構造、各科目の意味、資金繰りの見通し、返済原資の根拠——これらについていけなければ、「できない支援者」と見なされる。

これは非常に厄介な問題だ。

大手コンサル出身者がそのまま中小企業支援をやろうとすると、まさにここのギャップにぶつかる。キャッチアップが必須なのだが、数字は慣れの世界でもあり、すぐには身につかない。

さらに厄介なのは、数字を厳密に扱うことを軽視する傾向があることだ。事業コンサルができることの方が凄い、と言わんばかりに。戦略や組織の話はできても、財務三表を自分の手で作れない。この状態で中小企業の支援現場に立つと、苦労する。

はっきり言えば、会計的な分析のみならず、自分で財務三表を組み立てられることは最低条件だ。

逆に、会計の専門家に足りないもの

他方で、中小企業支援者には税理士や会計士の方も多い。会計的な分析は当然に得意領域だ。

しかし、事業視点での支援が不十分なケースも少なくない。数字は読めるが、その数字をどう変えるかの打ち手が出てこない。財務分析はできるが、事業戦略の設計や組織の変革までは踏み込めない。

ここに、大手コンサル出身者のアドバンテージがある。

大手向けの事業支援と中小企業向けの事業支援は確かに異なる部分がある。規模も、意思決定のスピードも、使えるリソースも違う。それでも、事業を構造的に捉え、打ち手を設計し、実行を推進する力は、中小企業支援においても大きな武器になる。

つまりこういうことだ。会計的な知識・経験は必須であり最低条件。しかし、それを身につけさえすれば、事業視点と合わせて十分にバリューを提供できる。

大手コンサルの変質と、中小企業支援という選択肢

近年、有名大学の就職先を見ると、大手コンサルティングファームばかりが目立つ。かつての少数精鋭の時代から、大量採用の時代へと変わった。

AI活用が広がる中で、スタッフ層の採用がそこまで必要でなくなる可能性もある。また率直に言えば、大量採用の結果として、年々レベルの低下が起きていると感じることもある。少数精鋭の時代からの変化は、ある意味で必然だろう。

そんな中で、大手企業向けだけでなく、中小企業支援にも目を向けてほしいと思う。

足りない知識や知見はある。大手支援をやっていたから中小支援もできる、とは思ってほしくない。しかし、一定の訓練を受けた方であれば、キャッチアップは十分に可能だ。

確かに、収入面では大手コンサルよりも下がることが多い。大手企業には予算がある。中小企業には予算がなく、支払える額にも限度がある。これは事実だ。

しかし、支援者として経営者と直接向き合い、従業員の方々と一緒に、現状を打破しより良い会社に変えていく。この活動には、大手コンサルでは経験しにくいダイナミズムがある。変化が目に見える。手触り感がある。

コンサルという生業を選んだならば

コンサルティングという仕事を選んだ以上、企業支援を通じた社会貢献を志したはずだ。

大手企業の支援を通じたインパクトは確かに大きい。しかし、中小企業の支援を通じても社会貢献はできる。むしろ、その手触り感や達成感は、直接的に感じ取れるものだと思う。

数字を語れるようになること。財務三表を自分で作れるようになること。金融機関と対等に会話できるようになること。

これらは、中小企業支援者としての最低条件であると同時に、身につければ確実に武器になるスキルだ。

是非、中小企業支援の道も考えてみてほしい。