値上げ交渉/価格転嫁への取り組み方

円安や物価高、賃上げなどの話もあり、中小企業経営において全般的にコスト上昇が起きています

もちろん、賃上げなど社会全体で対応しなければ硬直化していたと思いますし、良い動きだと思いますが、

中小企業経営という視点で言えば、当然にその分の利益を捻出しなければなりません

ここに現実的な苦労が生まれます

利益を得るには、新たな売上の創出、コストの削減のどちらかになりますが、

一般に売上の創出は時間を要しますし、対外的な活動ですので、原価低減活動(コスト削減)から活動することが多いのではないかと思います

コスト削減は社内である程度進めることができますので、即効性はありますが、限度もあります

(なおコスト削減はこちらを参照)

そこで売上の増加という意味で、売上=数量×売価ですので、数量を上げることが難しいならば、売価の値上げを考えたいところです

今は食品の値上げに限らず、ほぼすべての値上げを実感するところですので、比較的値上げ機運はあるかと思います

が、個別企業の世界では、世の中のトレンドがどうであれ、その1つ1つが真剣勝負であり、

要請される側もハイハイと簡単に値上げを受入れるわけがないというのが現実です

そこで、簡単でない値上げをどう実現していくのか?その取り組み方を説明していきます

簡単ではない。しかし効果は絶大

値上げというのは、単純に値上げできた金額がそのまま利益に直結します。

例えば、売上5億円の企業で、5%の値上げができれば、2千5百万円の利益増となります

当り前ですが、この金額は圧倒的に大きいです。

もちろん5%の値上げが簡単ではないですが、そのインパクトは絶大であるということをまずご理解ください

故に、現状のコスト増に対して、コスト削減では限界がありますので、値上げを本気で取り組む必要があります

本当にこのままでいいのか?(心構えが重要)

実際にコスト高になっている中で、利益はでていますでしょうか?

最近のコスト高というのは、大半が円安によるものです。材料・運送費など実は原油価格が上がっている点が理由になることが多いですが、よくよく見ると原油高ではなく、円安による円ベース原油高ということで、

原油に限らず、円安により輸入品がほぼ全部あがっている状況です

となると、為替の話ですから、神のみぞ知るで、まったく不透明です

しかし、経営に不透明な時期が無いなんてことはあり得ないわけで、この状況が仮に続いたとしても成り立つ事業にしなければならないというのが、経営への姿勢と考えます

であれば、本当にこのままの事業運営でいいのか?甘んじてていいのか?やるのか、やらないのか?

といった具合に値上げやコスト削減とかテクニック的にどうする以前にまずは、この状況に対しての心構えから整えるべきだと思います

テクニック論以前に覚悟の問題

というのも、値上げ交渉は相手のある話であり、相手は交渉したくないわけです。当たり前です

(鬼気迫る交渉になっているか?が重要なのです)

中途半端にやれば中途半端な結果しか生まれないです。

しかも、本気でやっても期待した成果が得られるかは別です。ましては中途半端なんて話にならない

何としてでも勝ち取る、という強い気持ちをもって臨むことでようやく道が開けるのが値上げ交渉だと思います

では、ここからが値上げ交渉/価格転嫁を実現するために何をすべきか3つのTipsを

値上げに対する罪の意識を捨てること

値上げはご法度である、お客様に迷惑をかけてはいけない!という想いを持っている経営者は多いと思います

しかし、一番の迷惑は潰れることです。供給責任を果たせなくなることです

そもそも価格は原価の積み上げではなく、本質的には相手の支払意欲で決まるものですので、

本当に必要とされる限り値上げは妥当であり、何ら臆するものではなく、

ましてや罪の意識など持つべきものではないです

先ず交渉のゴールを決めること

その上で、実際に覚悟持った交渉を行うと、相手も一旦話を聞こうという状況になります

しかし、これで安心しないことです

こちら側は難しいと思いながらも覚悟を決めて交渉に向かう中で、相手の反応が少し良いだけで、安心してしまうというか、変にありがたく感じてしまいがちです

そのため、必ず交渉する前にどこまで値上げを求めるのか、必達目標のゴール設定をしておいてください

そこに至るという覚悟をもって交渉に臨み、その数字でなければ価値はゼロである、という強い自覚を持ってください

心理的には厳しい、つらいのですが、そういうルールであると割り切って頂かないと、良い結果に結びつかないです

繰返しますが価格交渉は1つ1つが真剣勝負であるという自覚です

交渉の主導権を握ること

そして、大切なポイントは、交渉の主導権を握ることです

時間が必要だとか言われます

時間が経つのを待っていると、次は「○○情報」がほしいとなり

その情報を提示すると、次は「○○の確認をしたい」となり、、

さて、あっという間に時間が過ぎます

交渉の主導権とは、時間軸の主導権であり、スケジュールを確認し、

必要そうな資料があれば先に提示をするとか、

「どういう情報が必要ですか?」とか、

「誰に説明すれば良いですか?」とか、前のめりにいくことも重要です

勝負は交渉のテーブルではない

さて、実際に値上げの相談/交渉を行うのですが、テーブルについて、いきなり価格交渉をすると、基本的には拒否反応が先に出ます。

なぜならそもそも価格交渉したくないのですから先方は

ましては普段から気心しれた相手ならまだしも、ビジネスの正式な打ち合わせの場で、

相手も複数人いれば、メンツもあります。基本的には話は聞きますが…という感じで、聞くが動かない。となるのがオチです

当り前に重要なのですが、

勝負はその前につけておく必要があります

(少なくとも交渉の打ち合わせではゼロ回答は有り得ないという状況をつくるべきです)

ここで大事なのは、断れない状況をつくる/つくっておくという点です

具体的にどう動くかは、企業の状況次第なのですが、考え方の1つは、当事者になってもらうことです

我々と顧客様は別々の企業であり、我々が困っているから値上げしてください。ではなく、

顧客様が困るので、一緒に状況を打破するために活動させてください。というイメージで巻き込むことです

交渉相手にしない、相談相手、もっと言えば協働活動相手として、

交渉先ではなく同じ仲間として当事者となってもらうことで、一気に価格交渉は進みます

原価を把握するのは必須

値上げをする際に、そもそもですが、以下答えられるでしょうか?

  • 儲かっているのか?儲かっているならば、どこで儲かっているのか?何故儲かっているのか?
  • 赤字もあるのか?赤字があるならば、どこで赤字が起きているのか?何故赤字なのか?

どこで?というのは、事業単位、部門単位、製品単位、生産工程単位など、細分化できますが、

まずは製品やサービス単位で何を売れば利益が出やすいのか?何を売っていると利益が出ないのか?が分かるのが必須です

これが無いと、価格交渉も本来はしにくいのです

価格は上述の通り、相手の支払意欲であり、原価の積み上げではないですが、

特に製造業で継続して供給している関係だと、値上げの必要性、妥当性をどうしても確認されます

この時に、何故値上げが必要なのか?は供給責任者として、説明責任があると考えます

いや、世の中のトレンドで値上げ要請しても受け入れやすい。だから原価の構成など知らなくても、値上げできればなんでもいいという考え方もありますが、

原価把握もできていないその程度の管理体制の企業がその先も成長するとは思えないので、

ここは思考停止することなく、しっかりと値上げの根拠は示すべきであり、

実際に示すかどうかは別として、把握しておくべきなのは間違いないです

また、上記の質問は値上げの話関係無く、本来は把握すべき問です

原価の内訳が分かると、どこで損をだしているか?がわかりますので、そこを中心に改善活動をしながらも、

どうしても難しいために、価格交渉をさせてもらうという覚悟をもった交渉ができますので

値上げ対象を間違えないこと

値上げ対象の商品/製品については、今後の売れ行きが良いと見込めるものを中心に値上げをしてください

当り前でしょ、と言われそうですが、実際の値上げ交渉の現場では、全然数量がでない製品の値上げを認めてもらって喜んでいるケースが多いです

これは、「値上げをしてくれた」、「通常難しいことを成し遂げた」という達成感から来るのかもしれませんが、

全然話になりません。でも本当によくあるのです。それだけ特殊な場面なのかもしれません

だからこそ、値上げ交渉でどこまで収益改善を目指すのか?というゴールを設定し、

値上げ交渉の進捗状況をみて、常にシミュレーションを行い、本当に十分な成果となるのか?を確認していってください

最後に

実際の価格交渉は、顧客との関係性や、顧客の業績動向、今後の社会的な景況感などによっても感度は変わりますし、

上記のような共通的な視点はある一方で、実際の取り組みはかなり流動的かつ柔軟的な対応が必要なのが実際です

簡単ではないですが、その影響は非常に大きく、業績貢献は大きいです

成功すれば見える景色は大きく変わってきます